マイコプラズマ肺炎の動向と注意点

マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎の動向
本邦ではマイコプラズマの流行は、新型コロナウイルス感染症流行以前約4年周期で、秋から冬にかけてみられていました。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックによって飛沫感染対策が強化されたことで、2020年から2022年にかけては世界的に報告数が激減していました。公衆衛生対策が緩和された2023年以降、各国でRSウイルス感染症、インフルエンザ、麻しんなどの呼吸器感染症の流行が報告され、マイコプラズマについても同様に欧米、アジアにおいて流行が報告され、本邦においても2024年には過去最大の流行が観察されました。

細菌学的特徴と耐性
マイコプラズマは接着器官が呼吸器上皮細胞の絨毛に存在するシアル酸に付着した後、滑走運動で細胞表面に移動し、接着します。

マイコプラズマは、p1遺伝子分析で1型と2型に分類されています。
マイコプラズマの2つの系統の出現の割合は、マクロライド耐性の動向にも関連しており、東アジア地域では、2000年以降にマイコプラズマのマクロライド耐性化が問題となったが、耐性菌の大部分は1型でした。一方、国内で分離される2型菌はマクロライド耐性化があまり進んでおらず、2010年代後半からは2型菌の出現が増えたため、分離株全体としてマクロライド耐性化率が低下しています。

本邦でのマクロライド耐性状況
マイコプラズマ肺炎に対する治療にはマクロライド系抗菌薬が第一選択となっています。
しかし、2000年頃からマクロライド系抗菌薬に耐性を示す肺炎マイコプラズマ株が東アジア地域を中心に出現し、2012年頃には、地域差はあるものの国内分離株の80~90%がマクロライド耐性株となりました。その後、国内分離株の耐性率は低下し、2019年~2020年は20~30%と報告されています。耐性率が低下した要因として、マクロライド耐性菌の出現を考慮した診療ガイドラインの普及、薬剤耐性(AMR)対策により医療機関における抗菌薬の適正使用が進んだこと、小児に対しても使用可能なニューキノロン系抗菌薬の使用が増加したこと、耐性化の進んでいない2型系統株の割合が上昇したことなどが考えられています。

肺炎診療ガイドライン2024の治療改定ポイント
これまでガイドラインでは、AMR対策として広域経口抗菌薬であるキノロン系薬の安易な使用に警笛を鳴らしてきました。
キノロン系抗菌薬では、mutant selection windowの広い薬剤ほど耐性が生じやすいとされ、一方で、mutant prevention concentoration(MPC)を超える薬剤は理論上、耐性菌が生じにくくなり、そのコンセプトで開発されたのがガレノキサシン(ジェニナック®)です。ラスクフロキサシン(ラスビック®)も、AMR対策用キノロンとして期待されています。この結果から、ガイドライン2024年では、これまでのキノロン温存からキノロン・ファーストチョイスに方向転換しました(ただし、ガレノキサシンとラスクフロキサシンのみ)。
耐性マイコプラズマにはミノサイクリンがファーストチョイスに推奨されていますが、ミノサイクリンと比較しても90%以上の臨床的有効性が示され、マイコプラズマ感染症においても、ラスクフロキサシンとガレノキサシンはファーストライン・キノロンとして妥当と考えられています。

発症機序と重症化
マイコプラズマは飛沫感染により体内に侵入すると、呼吸器の上皮細胞表面で増殖し、菌体の表面に存在するリポプロテインが宿主細胞のToll-like receptor(TLR)2に認識されることで炎症が誘導されます。マイコプラズマは他の病原性細菌と異なり、外毒素やプロテアーゼなどの酵素の産生に乏しく、マイコプラズマの細胞毒性を示す因子の一つとして、菌が産生する過酸化水素が考えられています。

一般にマイコプラズマ肺炎は自然軽快傾向のある良好な経過をたどりますが、ときに急性呼吸不全を呈する劇症型もみられ、報告が増加しています。
重症化の機序の一つとして宿主のTh1サイトカインの産生亢進を起こすIL-18が考えられています。

重症肺炎の治療戦略
呼吸不全を呈する重症マイコプラズマ肺炎では、肺局所における細胞性免疫の過剰反応を抑制する目的から、抗菌薬とステロイド薬の併用が有効とされています。

参考文献:
「日本内科学会雑誌 114⑪ 外来で遭遇する呼吸器感染症の診療 日本内科学会」

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