冠動脈疾患治療:最近の動向とクリニックでの治療ポイント

冠動脈疾患治療
1.冠動脈疾患の分類と慢性期治療の変化
虚血性心疾患は、慢性冠動脈疾患(慢性冠症候群)と急性冠症候群に大別され、慢性冠症候群は主に狭心症や陳旧性心筋梗塞、急性冠症候群は心電図のST上昇と非ST上昇の2型と心臓突然死を指します。急性冠症候群に対しては冠動脈ステントによる治療が一般的です。
急性冠症候群の患者は、各所に不安定プラークを有している可能性があり、発症後1年以内の心血管イベント発症率が高いと言われているため、1年程度は厳重な警戒が必要です。
一方、慢性冠症候群は、大半が冠動脈の器質的狭窄あるいは攣縮によると考えられていましたが、微小循環の循環障害あるいは微小血管攣縮による微小血管狭心症が多いことがわかってきています。一過性の攣縮または微小血管レベルでの虚血が原因で、冠動脈閉塞を伴わない心筋虚血(INOCA)と呼ばれます。それに対し器質的狭窄病変を有する心筋虚血はIOCAと称されるようになり、こちらが冠動脈ステントで治療されていることがあります。

2.冠動脈インターベンションの進歩と最近の傾向
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の進歩は、再狭窄と血栓症の克服の歴史でありました。
冠動脈ステントは急性期合併症(急性冠閉塞など)と再狭窄の減少をもたらしました。さらに、再血行再建率が劇的に低下するきっかけとなったのが薬剤溶出ステント(DES)です。第一世代DESの登場により再狭窄の問題大きく改善しましたが、かわりの問題となったのが遅発性・超遅発性ステント血栓症の発症です。その血栓の原因としてDESの薬剤をコーティングするポリマーによる炎症、アレルギーが考えられました。そのため、2剤併用抗血小板療法(DAPT)期間を延長する傾向が強くなり、1年以上内服すべきとされるようになりました。第2世代DESからは血栓症が減少し、第3世代DESと呼ばれる新しいDESが続々と世に出るようになりました。一般にポリマーが消失するものやポリマーを使用しないDESを第3世代と呼ぶことが多いです。

3.冠動脈疾患治療後の内科治療
1)生活習慣改善管理ポイント
生活習慣の改善は、禁煙と栄養指導、体重コントロール、運動療法によって行います。

2)薬物療法のポイント
薬物療法は、症状を軽減するための薬物療法とリスクファクターの管理・心血管イベント予防のための薬物療法に大別されます。
(1)症状軽減のための薬物療法
発作予防にはβブロッカー、カルシウム拮抗薬、長時間作用型硝酸薬、ニコランジルが使用されます。また、発作時は即効性のニトログリセリンの錠剤やスプレーが使用されます。

INOCAの症状コントロールは、冠攣縮が主であれば第一選択となるのがカルシウム拮抗薬、第2選択が長時間作用型硝酸薬とニコランジルです。CMD(Coronary Microvascular Dysfunction)が主であれば第一選択はβブロッカー、次いでカルシウム拮抗薬、ニコランジルとなります。冠攣縮とCMDは合併することが多く、まずカルシウム拮抗薬を血圧が許す限りの高用量で使用することが基本となることが多いです。

(2)心血管イベント予防のための薬物療法
心筋梗塞などの心血管イベント予防のために、まずは抗血小板薬、高用量ストロングスタチンが使用されます。
リスクファクターのコントロールを行う薬剤は、同時に心血管イベント予防のエビデンスを有する薬剤を優先します。

高血圧であれば症状の改善効果と兼ねてカルシウム拮抗薬とβブロッカー、またイベント抑制効果を考慮しACE阻害薬やARB、ARNIなどのレニンアンギオテンシン系阻害薬が使用されます。
心機能が低下している患者にはβブロッカー、ARNI、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、SGLT2阻害薬を投与します。
糖尿病があれば心血管イベント予防、心不全予防を考慮したSGLT2阻害薬、GLP-1アゴニストの投与が優先されます。
脂質のコントロールはLDL-Cを主な指標として70mg/dl未満を目指し、高用量ストロングスタチンで目標に達しない場合はエゼチミブ、PCSK9阻害薬などを併用していきます。LDLCが低ければ低いほど心血管イベントの発症率が低下することが示されており、低いことでのリスクが増加しないことも示されています。LDL-Cが高値で長時間プラークが大量に蓄積してくる家族性高コレステロール血症などの診断を見逃さないことも重要です。Small dense LDLやレムナントも動脈硬化惹起性リポ蛋白であり、中性脂肪はそれらの増加を来す動脈硬化促進因子として独立したリスク因子です。これらを含めた残余リスクの指標としてnon-HDLコレステロールが簡便で、LDL-C+30mg/dl未満を目指します。フィブラート系薬剤とEPA製剤が使用されます。

(3)抗血小板療法、抗凝固療法の使用法
冠動脈疾患の心血管イベント発症予防において重要な位置を占めているのが抗血小板療法です。特にPCI施行患者に対する抗血小板療法は、2次予防など治療部位以外の動脈硬化巣から発症する心血管イベントを予防することに加え、ステント血栓症を予防することという2つの役割があります。

2次予防として標準となってきたのが低用量アスピリンです。
冠動脈病変をステントによって治療を行うようになり始まったのが、アスピリンにチエノピリジン系薬剤などP2Y12受容体拮抗薬を加えたDAPTです。
さらに、急性冠症候群、ステント留置患者だけでなく、脳梗塞や下肢虚血に対してもDAPTを投与するようになりました。
ステントの性能向上によって、ステント血栓症予防のためのDAPT投与期間に対する考えが大きく変化し、ステントに対しては、DAPT期間は短縮しても血栓症は増加せず、むしろ出血性合併症の方が問題であることが判明しました。
DAPT期間を短縮して単にアスピリン単剤にすると、今度は血栓性のイベントが増加する懸念があるため、対策として行われるようになったのが、アスピリンを早期に中止し、P2Y12受容体拮抗薬を単剤で投与する方法です。

多くの患者に対してDAPT期間は1~3か月が標準となり、その後は主にP2Y12受容体拮抗薬単剤となります。
出血リスクが低く、血栓リスクの高い比較的若い急性心筋梗塞患者のみDAPTを1年まで延長してもよいという考え方になってきました。
また、心房細動のように抗凝固薬の投与が必要な場合は、抗凝固薬の投与が優先され、特に慢性期は抗血小板薬との併用は避けるべきということがわかっています。
出血予防には、特に上部消化管潰瘍の既往がある場合はプロトンポンプ阻害薬を併用すること、ピロリ菌の有無をチェックすることが重要です。また、抗凝固薬は単剤であっても出血が問題となることがありますが、近年、左心耳閉鎖術は盛んに行われており、カテーテルで低侵襲で行うことができ、抗凝固薬を中止できることも多いです。

参考文献:
「日本内科学会雑誌 115② 大学・中核病院での循環器治療後に、近隣クリニック外来で注意するべきポイント 日本内科学会」

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