梶が谷駅前内科クリニック
公式ブログ
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重症筋無力症(MG)は、神経筋接合部を標的とする自己免疫性疾患です。
アセチルコリンレセプター(AChR)抗体の存在が明らかななってからステロイド薬が使用されるようになり死亡率は格段に減少しました。その後、筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)抗体も発見され、MGのバリエーションは広がりました。
1.疫学的事項
2018年の調査によれば、我が国における人口10万人あたりの推定有病率は23.1人であり、推定患者数は約29,000人です。近年の特徴としては後期発症(発症年齢50歳以上)の増加が著しいです。現在の患者数は、4~5万人になっている可能性もあります。
2.病態
MG発症のメカニズムをAChR抗体を例に概説すると、おそらく何らかの感染などを契機とし胸腺内でAChRが抗原提示され、抗原提示細胞を通じてAChRに感作されたヘルパーT細胞が生まれます。次にT細胞依存性にB細胞が形質細胞に分化し、自己抗体が産生されます。
自己抗体による神経筋接合部における神経筋伝達の障害のメカニズムは、第1は、アセチルコリン(ACh)とAChRの結合阻害です。第2はAChRの崩壊促進であり、エンドサイトーシスによるAChRの内在化が起きます。第3は補体介在性の運動終板破壊です。AChRに自己抗体が結合すると補体カスケードが活性化し、その最終段階で生成される膜侵襲複合体(MAC)が運動終板を破壊してこれを平坦化します。一方、MuSK抗体陽性MGでは補体介在性の運動終板破壊メカニズムはそれほど関与していないと考えられています。IgG1が主体の抗AChR抗体陽性MGではこの機序が大きく寄与しているが、IgG4が多い抗MuSK抗体陽性MGではこの機序の関与する割合は低いとされます。
3.サブタイプ分類
MGは以下の6型に分類されます。
①眼筋型MG
残りの全身型のうち抗AChR抗体陽性の患者を3つに分けます。
②早期発症MG(胸腺腫なし、発症年齢50歳未満)
③後期発症MG(胸腺腫なし、発症年齢50歳以上)
④胸腺腫関連MG(胸腺腫を有する、発症年齢問わない)
さらに、抗AChR抗体陰性の患者を分けます。
⑤MuSK抗体陽性MG
⑥抗体陰性MG
4.症状と診断
MGでは、眼瞼下垂、眼球運動障害、顔面筋力低下、咀嚼障害、構音障害、嚥下障害、頸筋筋力低下、四肢筋力低下、呼吸困難などの症状がいろいろな組み合わせで起きます。
MGの重要な臨床上の特徴は、これらの症状が日内変動や易疲労性を示すことです。
MG診療ガイドライン2O22では、まずは、A)各症状があることと、それが日内変動、易疲労性を示すことが前提となります。そのうえで、B)病原性自己抗体(AChR抗体またはMuSK抗体)が証明できればMGと診断できます。
症状があっても病原性自己抗体がない場合は、C)眼瞼の易疲労性試験、アイスパック試験、エドホロ二ウム試験、反復刺激試験、単線維筋電図のいづれかで神経筋接合部障害を示すことになります。
5.治療戦略
MG治療戦略の基本
①MGでは治療が多くの場合生涯にわたることを意識する。
②最初の治療目標は「経口プレドニン5㎎/日以下で軽微症状レベル(MM-5mg)である。
③EFTはMM-5mgの早期達成に有効である。
④漸増漸減による高用量経口ステロイド療法は様々な副作用やQOL阻害につながりやすく、かつ完全緩解や早期MM-5mgに関連しないため推奨されないです。
全身型MGに対して従来から行われてきた経口高用量ステロイドは、副作用やQOLの低下が問題となり推奨されないです。
ETF+経口低用量ステロイドが普及し、患者のQOLが担保されるようになってきました。
2)治療アルゴリズム
眼筋型はステロイドパルスを主体に治療を組み立てます。
全身型は、抗コリンエステラーゼ薬、少量の経口ステロイド、カルシニューリン阻害薬で治療を開始し、効果が不十分であればEFTを行います。
EFTでも効果が不十分であるか、あるいは効果が持続せず頻回の治療が必要な場合は分子標的薬を使用します。
3)経口ステロイドと免疫抑制剤
全身型MGでは少量の経口プレドニゾロンを最初から全例で投与します。
また、免疫抑制剤(タクロリムスあるいはシクロスポリン)を原則として追加します。
症状の重症度に応じて対処療法として抗コリンエステラーゼ薬を使用します。
4)早期即効性治療(EFT)
上記のように病初期の経口ステロイドと免疫抑制薬で効果がみられない場合にEFTを行います。
具体的な例は、免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法であり、これらにステロイドパルスを加えてもよいです。
5)胸腺摘出術
胸腺腫を合併しているMGでは胸腺摘出術は必須であるが、非胸腺合併MGに対する胸腺摘出術の要否については長いこと議論の的でした。
早期発症MGでは有意差が示されているが、後期発症MGでは示されていない、つまり、施行してもよいという位置付けと考えられます。
6)分子標的治療薬
MG発症の病態を上流、中流、下流に分けるとすると、上流のB細胞を抑える薬剤がリツキシマブです。
中流の胎児性Fc受容体(FcRn)阻害薬は、免疫グロブリンのリサイクルを抑えることによりIgGの濃度を低下させます。
下流の補体阻害薬は補体カスケード内でC5がC5aとC5bへ開裂することをブロックすることにより、最終産物であるMACが運動終板を破壊するのを防ぎます。
(1)リツキシマブ(リツキサン®)
リツキシマブは上流のB細胞マーカーであるCD20をターゲットとしたモノクローナル抗体です。特にMuSK抗体陽性MGに有効でありますが、AChR抗体陽性や抗体陰性MGでも有効性があると思われます。
一般的には約半年ごとに、週1回の点滴投与を4回程度行います。
(2)エフガルチキモド(ウィフガード®)
エフガルチキモドは中流に作用するFcRn阻害薬です。
ヒトIgG1のFcフラグメント製剤です。静注製剤と皮下注射製剤があります。毎週1回の投与で4週を1サイクルとし、これを適切なインターバルを設けながら繰り返します。
MuSK抗体陽性MGにおけるレスポンダーレートが高いことが示されています。
(3)ロザノリキシマブ(リスティーゴ®)
ヒトIgG4のモノクローナル抗体です。皮下注射製剤であり自己注射が可能です。毎週1回の投与で6週を1サイクルとし、これを適切なインターバを設けながら繰り返します。
MuSK抗体陽性MGにおける効果が大きいことが示されています。
(4)二ポカリマブ(アイマービー®)
新しいFcRn阻害薬です。
ヒトIgG1のモノクローナル抗体です。2週ごとの点滴投与を持続する点が特徴です。
(5)エクリズマブ(ソリリス®)
エクリズマブは下流を抑える補体阻害薬です。C5がC5aとC5bに開裂するのをブロックすることにより、最終産物であるMACが運動終板を破壊するのを防ぎます。本剤は2週に1回の点滴投与です。本剤を使用すると髄膜炎菌など莢膜形成菌への免疫機能が抑制されます。このため、本剤使用時にはあらかじめ髄膜炎菌ワクチンの投与を行うこと、発熱時に速やかに抗生剤の投与を行うことなどが髄膜炎菌への感染に十分な注意が必要となります。
(6)ラブリズマブ(ユルトミリス®)
エクリズマブと同様に補体阻害薬であり、C5がC5aとC5bに開裂するのをブロックします。エクリズマブの半減期を延長し長時間作用型に改変した薬剤であるため、8週に1回の投与でよいことになります。
(7)ジルコプラン(ジルビスク®)
エクリズマブやラブリズマブのような抗体製剤ではなく、環状ペプチド製剤です。C5のC5aとC5bへの開裂阻害以外にも、C5bとC6の結合阻害という作用ももちます。本剤は連日の皮下注製剤であり、在宅での自己注射も可能です。髄膜炎菌に対する注意はエクリズマブやラブリズマブと同様です。
7)眼筋型MGの治療
はじめに抗コリンエステラーゼ薬を投与し、眼瞼下垂のある症例にはナファゾリン点眼液を処方します。改善が不十分であれば経口プレドニン5㎎、次いでタクロリムスを開始します。これで効果がなければステロイドパルスを中心として治療を組み立てます。
8)MGクリーゼの治療
MGクリーゼでは速やかに気管内挿管、胃管挿入、全身管理を行います。抗コリンエステラーゼ薬が投与されていれば中止し、血液浄化療法およびステロイドパルス療法を追加します。
クリーゼの治療として分子標的薬、特に補体阻害薬が有効であるとする報告もあります。
9)irAE-MGの治療
がん領域で免疫チェックポイント阻害薬が多く使用されるようになり、免疫関連有害事象としてのMGを経験するようになってきています。
とりわけ、筋炎や心筋炎を合併する頻度が高く、とくにMG+筋炎+心筋炎と3つとも合併した病態をtriple M syndromeと呼び、生命予後もきわめて不良です。
軽症もしくは中等症のir-AEは通常のMGと同じように治療してよいですが、重症例は血液浄化療法、ステロイドパルスのほか、救命のために十分量の経口ステロイドが必要になります。補体阻害薬などの分子標的薬が有効である可能性もあRます。
参考文献:
「日本内科学会雑誌 115⑧ 進化する難病診療 日本内科学会」
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