GERD 胃食道逆流症 逆流性食道炎 非びらん性逆流症 

GERD 胃食道逆流症
胃食道逆流(GER)により引き起こされる食道粘膜傷害と煩わしい症状のいずれかまたは両者を引き起こす疾患であり、食道粘膜傷害を有する「逆流性食道炎」症状のみを認める「非びらん性逆流症(NERD)」に分類されます。

胃酸のGERは、GERDの食道粘膜傷害の主な原因であり、一過性LES(下部食道括約筋)弛緩と腹圧上昇、低LES圧の3つの機序があり、また、嚥下に伴うLES弛緩時に生じることもある。その他、食道裂孔ヘルニアや食道運動障害は過剰な胃酸の暴露の原因となる。
胃酸以外のGERも、GERDの原因となる。慢性咳嗽、喉頭炎などの食道外症状には酸以外の咽頭逆流の関与が強く示唆されている。

GERDの誘発因子として、激しい肉体運動、脂肪摂取の増加、過食、肥満、円背(えんぱい:一般的に猫背)、ストレス、LES圧を低下させる薬剤などが挙げられます。

GERDの定型的な食道症状は、胸やけ、呑酸(どんさん:酸っぱい液体がげっぷとなって上がってくる)である。定型的食道症状以外には、胸痛食道外症状(喉頭炎、咳嗽、喘息、歯の酸蝕症など)がある。

逆流性食道炎の内視鏡的重症度分類に用いられるロサンゼルス分類の客観性は高く、有用である。
粘膜傷害の長さが5㎜以下のGradeA、5㎜以上のGradeB、粘膜傷害の融合を認めるが全周の75%以下のGradeC、75%以上のGradeDに分類されます。

GERD治療の目的は、症状のコントロールQOLの改善に加え、合併症の予防である。酸のGERを防ぐ治療はGERD患者のQOLを改善する。

生活習慣の改善・変更の指導は、薬物治療とともにGERD治療に有効である。肥満者に対する減量、喫煙者に対する禁煙、夜間症状出現者に対する遅い夕食の回避就寝時の頭位挙上である。その他、患者によっては、脂肪食、甘食、柑橘系果物摂取などで胸やけ症状が誘発されることがあり、それを控える指導も有効である。

酸分泌抑制薬は、GERD治療に有用である。逆流性食道炎では、薬剤の酸分泌抑制力に依存することから、強力な酸分泌抑制薬の使用が有用である。非びらん性逆流症では、酸分泌抑制が有用であるが、酸分泌抑制力と効果との関連は一致しない。
酸分泌抑制薬には、''ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA),
プロトンポンプ阻害薬(PPI)、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)''など。

アルギン酸塩、制酸薬(酸中和薬)はGERDの一時的症状改善に効果がある。ただし、重症例には適していない。

消化管運動機能改善薬、漢方薬などは、単独療法の有用性を支持するエビデンスはないが、PPIとの併用により症状改善効果が得られる。
消化管運動機能改善薬にはモサプリド、アコチアミドなど、漢方薬には六君子湯、半夏瀉心湯など。

軽症逆流性食道炎の長期管理には、PPIを推奨され、P-CABは提案とされている。

重症逆流性食道炎の長期管理については、内視鏡的再燃の低さから、PPIよりP-CAB(ボノサプラン10㎎/日)が提案される。

GERD治療薬として、PPIによる維持療法は安全性は高いが、長期投与に際しては注意深い観察が必要であり、適切な適応症例においては、投与期間について明確な制限は存在しないが、必要に応じた最小限の用量で使用することが提案されている。

PPIの長期投与に関しては、米国消化器病学会のエキスパートレビュー2017において、懸念される有害事象はあるものの、その影響はわずかであるとされ根拠を示すエビデンスレベルもlowまたはvery lowであり、PPI長期投与の安全性は高いとされる。
PPIによる慢性合併症と推測される発生機序
腎:腎機能障害(反復性急性間質性腎炎)、脳:認知症(酸分泌低下によるビタミンB12欠乏など)、骨:骨折(酸分泌低下によるカルシウムやビタミンB12吸収低下など)、心臓:心筋梗塞(内皮NO低下が血栓形成など)、大腸:C.difficile感染(胃内酸度の低下による腸内フローラの変化など)、肺:肺炎(胃内酸度の低下と胃内細菌増殖など)、血液:貧血(酸分泌低下による鉄分やビタミンB12欠乏など)、胃:胃底腺ポリープ(酸分泌抑制による壁細胞増殖など)など

PPIの長期維持療法における現時点での注意事項として、カルチノイド腫瘍発生:今までのところ明確に示した報告はみられない。
消化管感染症・腸内細菌への影響:殺菌作用のある胃酸分泌を抑制により、消化管感染症が増加する可能性が考えられる。
薬物相互作用:PPIと他薬剤との相互作用には一定の注意が必要である。

Barrett(バレット)食道とは、Barrett粘膜(胃から連続性に食道に伸びる円柱上皮で、腸上皮化生の有無を問わない)の存在する食道と日本では定義されている。
Barrett食道は、全周性に3㎝以上のBarrett粘膜を認める場合をlong segment Barrett's esophagus(LSBE)という一方、Barrett粘膜の一部が3㎝未満であるか、または非全周性のものをshort segment Barrett's esophagus(SSBE)と呼んでいる。

胃酸、胆汁酸の食道内逆流は、Barrett食道の発生要因と考えられている。
日本人のLSBEからの発癌頻度は年率1.2%と推定され、SSBEからの発癌頻度は現時点で不明である。
欧米におけるBarrett食道における発癌の明らかな危険因子は、男性、喫煙習慣、Barrett食道の長さ、low grade dysplasiaの存在である。
3㎝以上のBarrett食道(LSBE)に関しては、内視鏡による経過観察が必要である。その他のより短いBarrett食道に対する必要性は不明である。
高用量のPPI投与がBarrett食道の発癌予防に有効な可能性はあるが、現時点では、日本においてBarrett食道に対して発癌予防目的に薬物治療を行わないことが提案されている。

参考文献:「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2021 南江堂」

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