慢性腎臓病の診断・診療のポイント

慢性腎臓病(CKD)は、末期腎不全、心血管疾患全死亡リスクとなりうります。
蛋白尿・アルブミン尿やeGFRの測定は、CKDのリスク評価、治療効果、治療選択に有用です。
血糖、血圧、脂質の調整とともに、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬などを用いた薬物治療がCKD進行の抑制に有用です。

透析導入患者の平均年齢は71歳を超えています。
CKDは、成人の5人に1人、推計約2,000万人が罹患しています。
CKDは、末期腎不全の原因となるだけでなく、心血管疾患(CVD)や全死亡のリスクであるため、CKDを早期に発見し、早期に適切な対応が重要です。

CKDの評価方法
血清クレアチニン(Cr)値、性別、年齢から日本人のGFR推算式(eGFRcr)によりGFRを算出し、腎機能を評価します。
血清Cr値は筋肉量の影響を受けるため、筋肉量が標準と大きく異なるなどeGFRcrの正確性に懸念がある場合は、血清シスタチンC値に基づくGFR推算式(eGFRcys)を参考にして総合的に評価します。
より正確な腎機能評価が必要な場合には、イヌリンクリアランスによる実測GFRの算出を行うことが望ましいです。

CKDの重症度分類および進行の評価
CKDは蛋白尿・アルブミン尿が増加するほど、またGFRが低下するほど、CVDイベント、心血管死、全死亡のリスクが高まります。
CKDの重症度は、原因疾患(Cause:C)、腎機能(eGFR:G)、蛋白尿・アルブミン尿(A)によるCAG分類で評価します。
CGA分類における腎機能評価に加え、ある期間のeGFRの低下率(%)とeGFRスロープ(傾き)も腎機能の悪化を評価因子として有用です。eGFRスロープは腎予後の予測に有用で、特に、-5.0ml/分/1.73m2/年(年間にeGFRG5ml以上の低下)より急速に腎機能が低下する症例は注意を要します。

高血圧症と心血管疾患の管理
血圧の管理
蛋白尿を有する症例では、レニンアンジオテンシン系(RAS)阻害薬を第一選択とします。
蛋白尿を有さない症例では、RAS阻害薬、カルシウム(Ca)拮抗薬、利尿薬の中から適切な降圧剤を選択します。
eGFR30ml/分未満の症例では、RAS阻害薬の使用は、高カリウム血症や腎機能低下を誘発する可能性があり、少量から開始することが望ましい。
心不全では、RAS阻害薬やSGLT2阻害薬の中止は、心血管系イベント発症や生命予後悪化のリスクとなる可能性あります。
高齢者では、Ca拮抗薬、利尿剤を第一選択とします。
高血圧性腎硬化症
高血圧により腎糸球体に動脈硬化性病変をきたし、血尿を認めず、蛋白尿が高度ではない尿検査所見を呈します。
進行したCKDにおいて、RAS阻害薬を中止しても腎予後は改善しないため一律的に中止する必要はありません。

糖尿病関連腎臓病
糖尿病関連腎臓病(DKD)は、DKDの早期診断、予後や治療効果判定に、尿アルブミン尿測定は必須であり、アルブミン尿の低減は末期腎不全・腎代替療法導入のリスクを減少につながります。
HbA1C7.0%未満を目安としますが、高齢者では低血糖を誘発しやすいインスリンやスルホニル尿素薬の使用は避け、HbA1C8.0%未満とすることも許容されます。
腎機能低下の進展抑制および心血管イベントと死亡の発生抑制が期待されるため、SGLT2阻害薬は第一選択薬です。
アルブミン尿の低減のために、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の使用・併用は推奨されますが、カリウム(K)などの電解質異常、腎機能低下には注意を要します。
GLP1受容体作動薬は、アルブミン尿を抑制する効果期待され、2型糖尿病患者さんでも肥満とCKDを合併していて減量が必要な症例でよい適応です。

高尿酸血症、脂質異常症
過食、高プリン・高脂肪・高たんぱく質食の嗜好、常習飲酒、運動不足は、高尿酸血症、脂質異常症の原因になるだけではなく、高血圧、肝機能障害、糖尿病とも関係するため、まずは食事療法、運動療法などの生活習慣の改善が大前提です。
痛風関節炎を繰り返す、痛風結石を認める場合、薬物療法の対象となり、血清尿酸値を6.0mg/dl以下に維持します。
CKDでは、尿酸生成抑制薬を使用することが多いですが、尿酸排泄促進薬の使用時は尿路結石に注意し、尿アルカリ化薬を併用することが望ましいです。

腎機能低下の抑止とCVDの予防のため、スタチン製剤によりLDL-Cを120mg/dl未満(可能であれば100mg/dl未満)に調整します。
スタチン単剤で効果不十分や副反応により増量できない場合は、スタチンとエゼチミブの併用療法を検討します。
高中性脂肪血症を呈する際には選択的PPARγモジュレーターなどを用います。これらの併用時には、腎機能低下や横紋筋融解症等に注意します。

CKDー骨・ミネラル代謝異常(MBD)
腎機能低下とともに骨密度の減少と骨質の悪化がみられ、健常者と比べて骨折のリスクが高まります。CKD-MBDは骨代謝のみならず血管石灰化や生命予後にも関与します。
CKDでは、リン(P)排泄能低下による高P血症を呈しますが、代償するために、P利尿因子の線維芽細胞増殖因子(FGF)23産生が増加します。FGF23や高P血症はビタミンD活性化を抑制し、腸管でのCa吸収低下、低Ca血症と副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が亢進されます。
eGFR30ml/分程度(未満)から、PTH上昇を抑えるために活性型ビタミンD製剤の使用、高P血症を認める場合は、食事療法によるリン制限やリン吸着薬の使用を考慮します。

腎性貧血
腎機能低下とともに貧血の有無を確認し、eGFR30ml/分未満のCKD患者での貧血は腎性貧血の可能性が高いですが、血液疾患、消化管出血などの腎性貧血以外の原因があるか検索をします。
Hbの管理目標は、Hb10~13g/dlとし、まずは、充分な鉄剤の投与を行います。トランスフェリン飽和度20%以上、かつ血清フェリチン100ng/ml以上では、赤血球造血因子製剤(ESA)もしくは低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬による治療を検討します。
HIF-PH阻害薬の選択の際には、深部静脈血栓症、肺塞栓症などのイベント発症に注意します。

CKD患者における薬物治療
糖尿病でないCKD患者に対するSGLT2阻害薬
糖尿病非合併のCKD患者では、蛋白尿を有する場合、SGLT2阻害薬は腎機能低下の進展抑制、CVDイベントと死亡の発生を抑制します。
蛋白尿を有しない症例における有効性についても報告もあります。
尚、糖尿病性ケトアシドーシス、重症低血糖、脱水などの有害事象もプラセボ群と比較しSGLT2阻害薬での有意な差はありません。
eGFR20ml/分までの糖尿病非合併CKD患者においてもSGLT2阻害薬は治療の選択肢の一つであり、継続して15ml/分未満となった場合にも副作用に注意しつつ継続も可能です。
投与開始時にeGFRの低下を認める場合があります。

代謝性アシドーシスの治療
腎機能の低下により酸排泄低下から代謝性アシドーシスを呈します。代謝性アシドーシスは、腎機能悪化、K管理に影響を及ぼすため、eGFR30ml/分程度(未満)から血清重炭酸イオン濃度を測定し、22mmol/l以上を目標に炭酸水素ナトリウム投与による補正を行います。

球形吸着炭使用による尿毒素除去
球形吸着炭は、インドキル硫酸などの尿毒症物質を吸着し、便として排泄します。腎機能低下を遅延させる報告があります。

血清カリウム(K)値の治療
高K血症や低K血症は、総死亡やCVD発症に関係するため、血清K値を4.0mEq/lから5.5mEq/lに管理します。RAS阻害薬やMRAなどの血清K値を上昇させる薬剤の減量・中止、代謝性アシドーシスの補正、食事療法によるK摂取制限、排便管理、利尿薬の調整、K吸着薬の処方などはK管理に有効です。
尚、RAS阻害薬やMRA、利尿剤の継続的使用は心不全管理において重要であるため、臨床的背景に応じして減量・中止ではなく、慢性的な高K血症に対する薬剤の併用を考慮することもできます。

参考文献:「日本内科学会雑誌 114⑤ 慢性腎臓病診療におけるポイント 日本内科学会」

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