IgA腎症の治療選択と未来の治療

IgA腎症は、腎糸球体メサンギウム領域にIgA抗体が優位に沈着するメサンギウム増殖性腎炎です。
その病態は、糖鎖異常IgA1と関連免疫複合体が本症の発症・進展のカギを握ることが証明され、その産生抑制と糸球体沈着後の炎症制御を目的とした治療薬の開発が進んでいます。

IgA腎症の病態
糖鎖異常IgA1免疫複合体の関与
IgA腎症患者では、糖鎖異常IgA1:Gd-IgA1が血中で増加しており、糸球体に沈着するIgAはGd-IgA1が主体であり、Gd-IgA1とその免疫複合体形成が本症におけるkey effector moleculeであることが明らかになっています。

粘膜免疫応答異常
上気道炎や腸炎後に肉眼的血尿や腎炎の増悪が認められることから、病態に粘膜免疫異常がかかわることがわかっています。
粘膜で誘導された腎炎惹起性IgA産生細胞が骨髄に移行して病態を形成すると考えられています。

Gd-IgA1産生細胞とAPRIL/BAFFの関与
Gd-IgA1産生細胞は、分化・成熟したB細胞である形質細胞(PC)が本症の病態に関与することが強く示唆されており、免疫記憶を有する長期生存型PCとして骨髄に存在します。IL-6、B cell-activating factor(BAF)や a proliferation inducing ligand(APRIL)などのサイトカイン、BAFFとAPRILの共通の受容体を介した細胞内シグナルが重要と考えられています。

IgA腎症の病態における補体系の関与
IgA腎症では、補体の副経路とレクチン経路の関与が考えられています。

従来のIgA腎症治療
eGFR30ml/分以上かつ尿蛋白量0.5g/日以上の場合は、RA系阻害薬や副腎皮質ステロイド薬(PSL)の投与を検討します。また、口蓋扁桃摘出を検討もします。
eGFR30ml/分以上かつ尿蛋白量0.5g/日未満の場合は、薬物療法なしでの経過観察を基本としますが、口蓋扁桃摘出やPSL投与を検討する場合もあります。
eGFR30ml/分未満の場合は、血圧や尿蛋白量等を考慮してRA系阻害薬での治療を基本としますが、PSLの投与を検討する場合もあります。

今後期待される治療
Gd-IgA1免疫複合体の産生抑制と、その糸球体沈着により惹起される炎症制御。
1)Gd-IgA1/Gd-IgA1免疫複合体を標的とした治療
①APRILおよびBAFFを標的とした治療
ヒト化抗APRIL抗体薬(Sibeprenlimab, Zigakibart)
②形質細胞を標的とした治療
形質細胞を標的としたプロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブ
③腸管選択型ステロイド
④ヒドロキシクロロキン(HCQ)
TRR7およびTLR9のシグナル伝達を減弱させる薬理効果をもつHCQ

2)腎臓への免疫複合体沈着後の補体活性化制御
Iptacopanは、補体制御因子であるfactor Bの阻害剤であり、副経路の活性化を抑制する。
Narsoplimabは、MASP-2に対する中和抗体であり、レクチン経路を選択的に阻害する。

3)糸球体硬化の進展制御を標的とした新規治療薬
SGLT2阻害薬、エンドセリン受容体拮抗薬

参考文献:「日本内科学会雑誌 114⑤ 慢性腎臓病診療におけるポイント 日本内科学会」

《関連ページ》

画像の説明