高血圧症

日本高血圧学会は2025年7月25日、「高血圧管理・治療ガイドライン2025」を発表しました。
「高血圧治療ガイドライン2019」から6年ぶりの改訂となりました。
(1)75歳以上の高齢者も含め、降圧目標を一律に130/80mmHg未満とする
(2)十分な降圧がなければ早期に薬物治療を開始、ステップアップすることが示されました。

「尚、高血圧治療ガイドライン2019では、75歳以上の高齢者、脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価)、CKD患者(蛋白尿なし)では、降圧目標が130/80mmHgではなく、140/90mmHg未満であった。」

降圧によるイベント発生抑制効果は、収縮期血圧9.0mmHg、拡張期血圧4.8mmHgの低下により、冠動脈疾患リスクが18%、脳卒中リスクが32%減少することが報告されています。

また、24時間にわたる血圧コントロールの重要性も示されており、夜間収縮期血圧が10mmHg上昇すると、冠動脈疾患および脳卒中リスクが20.1%上昇するとされています。

ただし、これまでの降圧目標の達成状況の報告として、高血圧治療ガイドライン2019の降圧目標である、診察室血圧が130/80mmHgをこれまでの降圧治療で達成した割合は21.3%と約2割にとどまり、約8割の方が目標を達成できておりませんでした。

上記を踏まえ、夜間を含む一日を通じた降圧目標の達成が必要と考えらます。

高血圧治療と高血圧対策の対象者

高血圧の血圧分類
高値血圧:130-139/80-89mmHg
Ⅰ度高血圧:140-159/90-99mmHg
Ⅱ度高血圧:160-179/100-109mmHg
Ⅲ度高血圧:180以上/110以上mmHg

全ての年齢層の高血圧者が高血圧治療の対象者となります。
正常血圧者以外のすべての血圧高値者(120/80mmHg以上)において、何らかの対応が必要とされます。

脳心血管病のリスクが低い場合は、生活習慣の修正を中心に対応し、よりリスクが高い場合は、薬物療法を考慮します。

高血圧は、脳心血管病の主要な危険因子であり、特に脳卒中に対する寄与度が大きいです。
高血圧者の予後は、高血圧のみならず、高血圧以外の危険因子と高血圧に基づく臓器障害の程度や脳心血管病の既往が関与します。

脳心血管病に対する予後影響因子として
A.血圧レベル以外の脳心血管病の危険因子として、年齢(65歳以上)、性別(男性)、喫煙、糖尿病、脂質異常症、肥満、若年発症(50歳未満)の脳心血管病の家族歴などが挙げられています。
B.臓器障害/脳心血管病として、脳:脳出血、脳梗塞、心臓:左室肥大(心電図、心臓超音波)、狭心症・心筋梗塞、心不全、心房細動、腎臓:蛋白尿、eGFR低値、慢性腎臓病(CKD)、血管:大血管疾患、末梢動脈疾患(ABI≦0.9)、脈波伝搬速度上昇動脈硬化性プラーク、眼底:高血圧性網膜症などが挙げられます。

脳心血管病発症の絶対リスクの評価と脳心血管病リスクの層別化
リスク層
リスク第一層<リスク第二層<リスク第三層

脳心血管病を既に有する場合、心房細動を有する場合、蛋白尿を有する慢性腎臓病(CKD)糖尿病は、二次予防対象者としてリスク第三層で高値血圧以上で高リスクとします。

リスクの第一層
血圧以外の予後影響因子がない場合
65歳未満の女性、糖尿病・脂質異常症・喫煙・心房細動・蛋白尿を有するCKD・脳心血管病のいずれもない場合
Ⅱ度高血圧以上(160/100mmHg以上)では中等リスク以上
Ⅲ度高血圧以上(180/110mmHg以上)では高リスク

リスクの第二層
血圧以外の予後影響因子がある場合
65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかがある
高値血圧以上(130/80mmHg以上)では中等リスク以上
Ⅱ度高血圧以上(160/100mmHg以上)では高リスク

リスクの第三層
血圧以外の予後影響因子がある場合
脳心血管病既往、心房細動、糖尿病、蛋白尿のあるCKDのいずれか、または、リスク第二層の危険因子が3つ以上ある
高値血圧以上(130/80mmHg以上)では高リスク

高血圧の管理計画
①血圧高値は継続であることの確認とそのレベルの評価
二次性高血圧の除外
③危険因子、臓器合併症、脳心血管病などの予後影響因子の評価
生活習慣の修正の指導
薬物療法の必要性の評価
降圧目標値の決定

血圧レベル別の血圧管理計画

高血圧 ≧140/90mmHgの場合
      ⇩
生活習慣の修正/非薬物療法
  ⇩         ⇩
高リスク     低・中リスク
  ⇩         ⇩
ただちに薬物療法 概ね1か月後に再評価
            ⇩
   十分な降圧がなければ生活習慣の修正/非薬物療法の強化と
   薬物療法の開始

降圧薬選択の基本
降圧薬単剤療法のみで降圧目標を達成できる割合は4割未満にすぎませんでした。

主要降圧薬(G1降圧薬)単剤「降圧薬治療STEP1」で降圧目標未達成の場合には速やかに、かつ副作用や有害事象に注意しながら、2,3剤の併用「降圧薬治療STEP2」を進める。G1降圧薬を併用するが、病態に応じてG2降圧薬(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬とMR拮抗薬)も用います。3剤併用療法「降圧薬治療STEP3」には、原則としてサイアザイド系利尿薬を含める。
初診時に、高リスクⅠ度高血圧(140~159/90~99mmHg)Ⅱ・Ⅲ度高血圧(160/100mmHg以上)では、2剤併用療法から開始することができる。
降圧薬は、1日1回投与を原則としますが、24時間にわたって降圧することが重要です。
長時間作用が持続する降圧薬を選択し、早朝高血圧や夜間高血圧では、朝に服用していた降圧薬を晩服用や朝晩2回分服に、あるいは晩や就寝前に追加することも考慮します。
降圧の速度は、数か月で降圧目標を達成することが望ましく、脳心血管病発症が高リスクの患者では2剤併用による降圧治療開始も含めて数週間以内に達成することを考慮します。
異なるクラスの降圧薬の併用は、単剤の倍量に比べ、降圧効果が大きいです。また、半量の併用療法では、単剤常用量より大きな降圧が得られ、副作用(有害事象)の発生を低く抑えられます。

G1降圧薬(降圧薬グループG1)
長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、少量のサイアザイド系利尿薬、β遮断薬を主要降圧薬としている。
G2降圧薬(降圧薬グループG2)
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬、MR拮抗薬
G3降圧薬(降圧薬グループG3)
α遮断薬、ヒドララジン、中枢性交感神経抑制薬など

1) Ca拮抗薬
細胞膜上のCaチャネルに結合し、細胞内へのCa流入を阻害し、おもに血管平滑筋を弛緩させることにより血圧を低下させます。
ジヒドロピリジン系と非ジヒドロピリジン系に大きく分類され、特に長時間作用型DHP系Ca拮抗薬が降圧薬として広く使用されています。
左室肥大や動脈硬化の進展を抑制し、糖・脂質・電解質代謝にも影響は少なく、臓器血流保持効果に優れています。
副作用は、低血圧、動悸、頭痛、ほてり感、顔面紅潮、浮腫、歯肉肥厚や便秘などがあります。

2)ARB
ACE阻害薬と同様にRA系阻害薬と称されます。
アンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体に特異的に結合し、AⅡによる強力な血管収縮、体液貯留、交感神経活性を抑制することによって降圧作用を発揮します。臓器保護作用が認めされており、心、腎、脳の臓器合併症や糖尿病などを有する症例では第一選択薬として用いられます。CKD患者では、ACE阻害薬とともに末期腎不全への進行を抑制効果が認められます。
妊娠または妊娠している可能性のある女性、両側性腎動脈狭窄例などでは禁忌です。高齢者やCKD患者(eGFR30ml/min未満など)では腎機能が悪化することがあるので低用量から開始します。

3)ACE阻害薬
昇圧系であるRA系においてアンジオテンシンⅡ産生を抑制し、降圧系のカリクレインーキニンープロスタグランジン系を亢進する作用もあります。降圧効果はARBとほぼ同等かやや弱いとされるが、高血圧患者における心血管イベントや総死亡リスクの低減効果はARBと同等とされます。また、冠動脈疾患を発症リスクを有意に抑制することが示されています。CKD患者では、ARBとともに末期腎不全への進行を抑制効果が認められます。
副作用では、ブラジキニンの作用増強による空咳があり、重要な副作用として血管浮腫があります。ACE阻害薬の多くが腎排泄であり、腎障害時は少量から開始します。

4)利尿薬
少量のサイアザイド系利尿薬は、遠位尿細管でのナトリウム再吸収を抑制することにより循環血流量を減少させますが、長期的には末梢血管抵抗を低下させることにより降圧をもたらします。サイアザイド系利尿薬単独でも心血管イベント抑制効果が報告されています。減塩が困難な高血圧や浮腫を有する体液過剰を合併した高血圧、治療抵抗性高血圧に対する降圧薬として効果が期待でき、心不全の予防効果も優れています。
副作用には、低ナトリウム血症、低カリウム血症などの電解質異常、腎機能低下、耐糖能低下、高尿酸血症など代謝系への影響があります。

5)β遮断薬(含α・β遮断薬)
心拍出量の低下、腎臓からのレニン分泌の抑制、二次的な中枢性交感神経出力の低下などにより降圧をもたらします。積極的適応は、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)、心筋梗塞後、器質的冠動脈狭窄による狭心症、大動脈解離・胸部大動脈瘤などです。さらに、交感神経活性亢進が認められる若年者の高血圧や頻脈傾向の高血圧、ストレス誘発性高血圧、甲状腺機能亢進症などの高心拍出性高血圧、頻脈性心房細動合併高血圧などにも有効です。従来のβ遮断薬(水溶性β遮断薬のアテノロール)は、糖・脂質代謝に悪影響を及ぼすことや臓器障害・脳心血管病発症抑制効果が他の主要降圧薬より劣るとされますが、α・β遮断薬(カルベジロール)や脂溶性β遮断薬(ビソプロロール)では、代謝副作用が少ないとされます。
禁忌または注意を要する病態は、気管支喘息、高度徐脈、Ⅱ度以上の房室ブロックなどです。

6)MR拮抗薬
アルドステロンによる腎臓の遠位尿細管および接合尿細管、集合管のMRの活性化に拮抗的に作用し、尿中へのカリウムの排泄を抑制しナトリウム排泄を促進し降圧効果をもたらします。
ステロイド骨格を有するスピロノラクトンやエプレレノンと非ステロイド型のエサキセレノンに分類できます。治療抵抗性高血圧に対して、追加投与で降圧を期待できます。スピロノラクトンやエプレレノンは、心不全や心筋梗塞後において予後を改善する報告、HFrEFに対する標準的治療薬の一つになります。エプレレノンは、蛋白尿(アルブミン尿含む)を伴う糖尿病、腎機能障害(eGFR30ml/min以下)を有する高血圧では禁忌ですが、エキサセレノンとスピロノラクトンは、腎機能や血清カリウム値に注意しながら投与可能です。エプレレノン、エキサセレノンはスピロノラクトンに比べて性ホルモン関連の有害事象が少ないです。いずれのMR拮抗薬も血清カリウム値に注意する必要があります。

7)ARNI
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)は、ネプリライシン阻害作用を有するサクビトリラートのプロドラッグであるサクビトリルと、アンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体を遮断するバルサルタンを結合させたものです。降圧効果はネプリライシンを阻害することにより内因性のナトリウム利尿ペプチドを増加させること、ATI受容体遮断によるに二次元的効果です。ナトリウム利尿ペプチドは、腎臓において、輸入細動脈を拡張させ、輸出細動脈を収縮させ、加えてメサンギウムを弛緩させることで糸球体濾過量を増加させ、さらに、髄質集合管内におけるナトリウム、水の再吸収を抑制し、ナトリウム利尿を促します。CKDを伴う高血圧でも腎機能を悪化させず、比較的安全に有意な降圧が得られます。

生活習慣の改善

生活習慣の改善は、高血圧予防や、降圧薬開始前のみならず、降圧薬開始後も重要です。
ナトリウム(Na)(食塩)制限:減塩目標は6g/日未満です。
Na以外の栄養素と食事パターンカリウム(K)を多く含む野菜・果物、低脂肪牛乳・乳製品、緑茶、コーヒーなどを積極的に摂取します。降圧に有効なその他の栄養素も複合的に摂取できるDASH食や地中海食も勧められます。減塩・増KによりNa/K比の低下に努めます。ただし、慢性腎臓病(CKDステージ3b)以上など積極的摂取が勧められない病態の方には注意が必要です。
DASH食(野菜・果物・全粒穀物・低脂肪乳製品・ナッツ・魚などで食物繊維、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル、良質なタンパク質を摂取する食事)
地中海食(野菜・果物・全粒穀物・豆類・種実類・ハーブ・スパイスなどの食品、オリーブオイルを摂取し、適量のワインなどを摂取する食事)
適正体重の維持BMI25未満を維持します。
運動:軽~中等度強度の有酸素持久力運動を毎日30分以上(尚、1回につき10分以上継続)実施する。レジスタンス運動(1日20分、週2~3回程度)も有効です。
節酒:エタノールとして男性20~30ml/日(おおよそビール中瓶1本、日本酒1合、焼酎半合、ウイスキーダブル1杯、ワイン2杯に相当)以下、女性10~20ml/日以下に制限します。中国と南アジア地域では、脳梗塞・脳出血とともに飲酒量と単調増加的な関連が認められ、さらに、大量飲酒は、高血圧、脳卒中に加え、アルコール心筋症、心房細動、睡眠時無呼吸症候群、がんの原因にもなり、死亡率も高めています。
禁煙加熱式たばこなどを含めて禁煙し、禁煙後の体重増加に注意します。
その他:室内・屋外の寒冷暴露の回避、適切な睡眠時間(6~8時間程度)の確保、便秘の回避、ストレスの管理に努めます。

参考文献
「高血圧管理・治療ガイドライン2025 日本高血圧学会」
「Asayama K, et al:J Hypertens.2019 」
「Thomopoulos C, et al:J Hypertens.2014 」

《関連ページ》

画像の説明