梶が谷駅前内科クリニック
公式ブログ
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実践的喘息診療へ
喘息の成人における有病率は約10%、患者数は1000万人を超えると推定されます。
喘息の基本病態が気道の慢性炎症であり、抗炎症薬の吸入ステロイドが治療の第一選択薬になっています。
分子レベル、遺伝子レベルの病態解明が進んでいます。
喘息における気道炎症の分子病態
アレルゲンが体内に侵入すると、マクロファージ、樹状細胞などの抗原提示細胞は貪食し、IL-4の作用によりナイーブT細胞が特異的な受容体を持つTh2細胞に分化します。
Th2細胞からは、IL-4、IL-5、IL-13などの2型サイトカインが産生されます。IL-4、IL-13はB細胞のクラススイッチを誘導し、IgE抗体の産生を促進します。
IgE抗体は肥満細胞や肥満細胞や好塩基球の表面のFcεRIに結合し、アレルゲンの暴露により活性化された肥満細胞や好塩基球は脱顆粒し、ヒスタミン、ロイコトリエンなどを放出し、即時型のアレルギー反応が起きます。
IL-5は好酸球の活性化や生存を延長し、IL-13は気道上皮の杯細胞化生、粘液産生亢進や平滑筋収縮およびリモデリングを促進します。
2型自然リンパ球(ILC2)は、様々な環境因子により気道上皮細胞から産生されるIL-33、TSLPなどの上皮由来のサイトカインにより活性化され、IL-5、IL-13の産生を誘導し気道炎症を惹起します。
Th2やICL2が関与する病態は2型炎症(Type2)、最近ではT2-high喘息と呼ばれ、喘息患者では2型炎症を呈する患者が半数以上を占めます。
一方、2型サイトカインの関与が乏しいと考えられる喘息は、T2-low喘息と称されます。
T2-low喘息は、喘息患者の10-20%存在し、ステロイドに抵抗性で治療に難渋することが多いです。単一の病態ではなく、好中球性や好酸球性の混在した病態も報告されています。
気道炎症のバイオマーカー
喀痰中の好酸球比率や血中の好酸球、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)値などがあり、喀痰の検査は実臨床では難しいこともあり、血中好酸球数とFeNOを組み合わせて評価します。
血中の好酸球数が300/μL以上では、増悪のリスクが高くなります。
2型炎症によりIL-4/IL-13が気道上皮に作用すると、一酸化窒素(NO)が合成され、呼気に放出されます。ICS未使用患者でFeNOが22ppb以上であれば喘息の可能性を考え、37以上では喘息の可能性が高いです。
血清総IgE値は、アトピー性喘息の指標となり、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎などと併存していると高くなります。2型炎症の評価には、好酸球数とFeNOと合わせて総合的に評価します。
喘息の難治化要因
1) 上気道の好酸球性炎症
アレルギー性鼻炎と喘息の合併、好酸球性副鼻腔炎、好酸球性中耳炎と喘息の重症化との関与が報告されています。
2) 肥満
肥満は喘息発症の危険因子であり、肥満は喘息の増悪因子でもあります。
3) 気道分泌亢進
喘息患者では、多量の粘ちょうな痰が末梢気道を閉塞し窒息で喘息死に至ることがあり、ムチンMUC5ACが重要とされています。
喘息の基本的治療方針
喘息の治療の第一選択は、2000年代にはICS/長時間作用型β2刺激薬(LABA)による治療が主体となり、また、喘息の気道では、迷走神経過緊張状態であることから、アセチルコリン(Ach)による気道収縮や粘液分泌亢進を抑える作用を有する長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の吸入薬が軽症から重症持続型喘息まで適応となっています。ICS/LABA/LAMAのトリプルセラピー製剤も開発されました。
従来のガイドラインでは、段階的治療が用いられ、ステップ1から4と重症になるに従いICS用量の増加と気管支拡張薬のLABAやLAMAの追加やロイコトリエン受容体拮抗薬を追加し治療を強化しています。
未治療の場合には、初期治療として中用量のICS/LABAの投与が推奨されています。
一方、喘息コントロールが安定した場合には、治療のステップダウンが検討されます。
ステップダウンの最適な方法に関するエビデンスは乏しいですが、3-6ヵ月症状コントロールが良好な状態や症状や呼吸機能が6ヵ月以上安定した状態に考慮することになっています。
気道の構造が変化する気道リモデリングを来すと、不可逆的な気流制限が生じます。気道リモデリングは炎症だけでなく、気道収縮反応により誘導されるという報告もあり、重症化や治療抵抗性になる要因となるため、早期の治療導入や適切な治療が重要です。
Treatable traitsの治療方針
最近、喘息の多様性を考慮した個別化治療として最適な治療を行うため、Treatable traitsに基づいたアプローチが推奨されています。
Treatable traitsは、①肺の特徴(好酸球性炎症、気流制限、粘液分泌亢進など)②全身的特徴(肥満、睡眠時無呼吸症候群、不安・うつなど)③行動や環境に関連する特徴(喫煙、アレルゲン・大気汚染暴露など)に分類されます。
重症喘息の現状と課題
高容量ICSに加えて他の喘息長期管理薬による治療を要する、あるいはそれらを用いてもコントロール不能な喘息を重症喘息と判断します。
重症喘息は、喘息患者の5~10%存在し、2型炎症が80%を占めています。
重症喘息の問題点として、重症になるほど経口ステロイド(OCS)の投与率が高く、OCS関連有害事象の発現率も増えています。
重症喘息の治療:生物学的製剤
重症喘息に対して、2型炎症を標的とした重症喘息に対する様々な生物学的製剤が開発されており、全身性ステロイド薬を年に2回以上使用する場合や日常的な喘息コントロールが不良な場合は、生物学的製剤の導入を検討します。
IgE、IL-5、IL-4/IL-13、TSLPなどの主に2型炎症と関連する分子を標的としています。
血中好酸球数、FeNOや血清総IgE値などの2型炎症のバイオマーカーを測定し病態を把握し、発症年齢や併存症を勘案し薬剤を選択します。
現在本邦では、抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、IL-5受容体α抗体(ベンラリズマブ)、IL-4受容体α抗体(デユピルマブ)と抗TSLP抗体(テゼペルマブ)が上市されています。
オマリズマブは、血清総IgE値が30~1500IU/mlの患者に適応で、アトピー性、若年発症の喘息患者に有効であり、特発性蕁麻疹、季節性アレルギー性鼻炎にも適応があります。
メポリズマブ及びベンラリズマブは、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EPGA)にも適応があり、両者はIL-5を抑制し、好酸球数を減らし好酸球の活性化を抑制し、末梢好酸球数が150/μL以上などに有効となります。
デユピルマブは、若年発症のアトピー型にも成人発症型でFeNO濃度が高い症例でも有効性が認められ、アトピー性皮膚炎、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、慢性蕁麻疹にも適応があります。
テゼペルマブは、2型炎症だけではなく、T2-low喘息においても増悪抑制効果が認められています。
参考文献 「日本内科学会雑誌 114⑨ Clinical remissionを目指す実践的喘息診療」
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