急性上気道炎、急性気管支炎

急性上気道炎、急性気管支炎

急性上気道炎(acute upper respiratory tract infection)は、鼻腔から咽頭・喉頭までの上気道に炎症を生じる感染症の総称であり、いわゆる普通感冒(common cold)のことです。一方、急性気管支炎は、気管から末梢の気管支に炎症を生じる感染症の総称です。
URI、急性気管支炎どちらもウイルスが原因となることがほとんどであり、抗菌薬(抗生物質)治療を要する細菌感染が原因となることは少ないです。そのため、URIあるいは急性気管支炎における治療は安静や症状に対する対症療法が基本となります。

1.日本におけるURI、急性気管支炎における抗菌薬処方の状況
近年、薬剤耐性菌(Antimicrobial Resistance:AMR)による死亡患者数が増加傾向にあります。AMR対策は世界的に喫緊の課題です。WHOはAMRの原因の一つとして抗菌薬の過剰処方をあげています。
アメリカ内科学会およびCenters for Disease Control and Preventionより、URIや急性気管支炎を含む急性呼吸器感染症における抗菌薬の適正使用についてのガイドラインが発表されており、具体的に4つの診療指針が示されています。
1つ目は、肺炎を疑わない場合気管支炎の患者では検査や抗菌薬治療を行うべきではないこと
2つ目は、A群溶連菌による咽頭炎が疑われる場合(持続する発熱、前頸部リンパ節炎、扁桃咽頭の滲出液など)、A群溶連菌に対する迅速抗原検査あるいは培養検査で検査を行い、溶連菌による咽頭炎と確定診断された場合に抗菌薬治療を行うこと
3つ目は、10日以上持続する症状、重症の症状、39度以上の高熱、3日以上持続する膿性鼻汁あるいは顔面の疼痛、5日以上持続するウイルス性副鼻腔炎の症状が改善後再度症状の増悪を認める場合のいずれかを満たした場合に急性副鼻腔炎として抗菌薬を検討すること
4つ目は、普通感冒には抗菌薬処方を行わないこと
となっています。

2.URI、急性気管支炎における原因微生物ならびにウイルス感染と細菌感染の鑑別
1)URIならびに急性気管支炎の原因微生物
急性呼吸器感染症(URI+急性気管支炎)における原因微生物の内訳は、国や地域、検査方法により原因微生物やその頻度は異なるものの、どちらも基本的にはウイルス性感染が主体であり、細菌感染症は稀です。ウイルスでは、ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど。細菌では、S.pneumoniae、H.influenzae、M.catarrhalis、M.pneumoniae、C.pneumoniaeなどです。
日本において、多項目遺伝子検査法の一つmultiplex PCR法を用いた検査法で急性呼吸器感染症の原因微生物の検討を行った研究結果でも、やはりいづれも報告もウイルス感染症が多くを占めており、溶連菌や百日咳を含めた感染症はほとんどみられていませんでした。
ただし、咽頭痛を呈する成人の5~15%が溶連菌による咽頭炎であったの報告や細菌感染による急性副鼻腔炎や急性気管支炎も一定数認められました。

2)溶連菌による咽頭炎ならびに抗菌薬投与を行うべき咽頭炎
溶連菌による咽頭炎は、扁桃周囲炎だけでなくリウマチ熱や急性糸球体腎炎などの合併症を引きおこす可能性があります。
一般的に随伴する咳、鼻漏、後鼻漏、結膜炎、咽頭粘膜のアフタはウイルス感染を疑う症状や所見であるため、それらを認めた場合基本的には抗菌薬投与は不要となります。
溶連菌による咽頭炎の可能性を評価するスコアリングシステムの基準には、①38度以上②咳がない③前頸部リンパ節腫脹・圧痛がある④扁桃の腫脹・滲出液があるの4項目の臨床症状をそれぞれ1点として、年齢の補正(45歳以上:-1点、45歳以下:+1点)を行います。合計、特に4点以上であれば溶連菌の可能性が高くなるため、溶連菌の抗原検査を行ったうえで検査陽性であれば溶連菌に対する抗菌薬治療としてペニシリン系抗菌薬内服治療を行います。

3)抗菌薬投与を行うべき急性副鼻腔炎
急性副鼻腔炎の原因微生物として、ライノウイルスなどのウイルスだけでなくS.pneumoniae、H.influenzae、M.catarrhalisなどの細菌が原因となることがあります。
鼻漏、顔面/前頸部痛・圧迫感、鼻汁・後鼻漏の3項目の臨床症状を点数化し、合計点数に応じて重症化判定を行います。
中等症、重症では、一次治療の第一選択薬としてアモキシシリン経口1回500mg・1日3~4回の高用量投与を5日間行うことが推奨されています。

4)抗菌薬投与を行うべき急性気管支炎
急性気管支炎の原因微生物はウイルスがほとんどを占めており、百日咳やM.pneumoniaeなどの細菌が原因となることは少ないため、急性気管支炎には基本的には抗菌薬投与は不要です。ただし、百日咳は一定の流行時期があり、日本でも2025年シーズンは百日咳の流行がみられており、急性咳嗽の原因として百日咳を鑑別に挙げて抗菌薬治療を行うことは重要となります。
JAID/JCSの感染症治療ガイドライン2023等では、基礎疾患がなく健常な成人の場合には抗菌薬は不要で鎮咳薬や去痰薬などの対症療法を行うこととしています。
一方、COPDや気管支拡張症などの慢性呼吸器疾患、慢性心不全、慢性腎疾患、コントロール不良の糖尿病などの基礎疾患を有する場合、細菌の二次感染を契機に基礎疾患の増悪や肺炎に進展する恐れがあるため、抗菌薬の投与を検討するとしています。

3.百日咳の診断と治療
1)百日咳の疫学
百日咳はB.pertussisを原因菌とします。主な感染経路は飛沫感染や接触感染です。
近年、ワクチン接種後年数が経過したことによる免疫低下を伴う青年や成人に感染が拡大し、しばしば流行を起こしています。
2)百日咳の診断
百日咳の診断のゴールドスタンダードは培養検査での菌の検出であるがその感度は低く、実診療ではPCRやLAMPなどの遺伝子検査あるいは血清抗体価測定が診断に有用です。
百日咳の抗原として主に百日咳菌毒素(PT)と菌体表面に存在し宿主への感染成立に関与する接着因子のひとつである繊維状赤血球凝集素(FHA)の2つがあり、抗PT抗体価と抗FHA抗体価が測定されており、抗PT抗体を用いた診断が推奨されています。ワクチン接種歴がある患者では抗PT抗体価が上昇する可能性があることに注意が必要です。百日咳診断では、血清抗体価のペア血清での診断が望ましいですが、迅速診断は不可能で受診時点での治療方針決定には寄与しません。
百日咳診断には症状から百日咳を疑い臨床診断で抗菌薬投与を行うケースが多いと思われますが、百日咳の症状として①咳き込みによる目覚め、②発作性の咳き込み、③咳き込み後の空嘔吐、④家族などの周囲に同様の咳をしている人がいることが有意に多くみられており、これらの症状を認めた場合などは検査が陰性であっても周囲の流行状況を踏まえ百日咳と診断し治療を行います。
3)百日咳の治療
マクロライド系抗菌薬が第一選択となり、①アジスロマイシン経口1回500mg・1日1回3日間、②クラリスロマイシン経口1回200㎎・1日2回7日間、③エリスロマイシン経口1回400㎎・1日3回14日間のいずれかの抗菌薬投与を行いますが、近年世界的にマクロライド耐性株が問題となっています。

参考文献:
「日本内科学会雑誌 114⑪ 外来で遭遇する呼吸器感染症の診療 日本内科学会」

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