ウイルス性肺炎の診断と治療

ウイルス性肺炎の診断と治療
1.ウイルス性肺炎の疫学と病態
様々なウイルスが肺炎を起こしうるが、臨床現場で遭遇する頻度が多いのは、かぜの原因となるCARV(community-acquired respiratory virus)です。
国内でCARVを含めた肺炎の原因微生物を調査した大規模研究では、15歳以上の市中発症肺炎患者を対象としているが、23%で何らかのCARVが検出され、最も多かったのはライノウイルス(HRV)でした。
米国で成人市中肺炎を対象とした論文のシステマティックレビューではCARV検出率は25%であり、4人に1人はCARVが検出されています。これらの検討はCOVIC-19パンデミック前のものであり、現在はSARS-Cov-2も肺炎の原因として考慮する必要があります。HRVの流行は通年性ですが、多くのCARV流行には季節性が見られ、インフルエンザウイルス、RSV、季節性コロナウイルスは主に冬に流行し、ヒトメタニューモウイルスは3~6月に流行することが多いです。しかし、COVID-19パンデミック後はこの流行パターンに変化が生じています。
尚、検出されたCARVは肺炎の原因なのかですが、採取した検体種(鼻咽頭ぬぐい液、喀痰)や画像所見などを参考に、CARVがどの程度、肺炎の病態に関与しているかを見極める必要があります。

2.臨床診断
肺炎の二大原因である細菌性とウイルス性を、臨床診断で鑑別することは困難です。
尚、本邦におけるプロカルシトニン測定は、敗血症疑いの患者しか算定できない点に留意します。胸部画像検査でも細菌性肺炎とウイルス性肺炎の鑑別は困難とされていますが、その理由はウイルス性肺炎の画像パターンが多彩で、非ウイルス性肺炎の画像所見とオーバーラップするためです。しかしウイルス性肺炎は各ウイルス感染の病態を反映した陰影をとり、科ごとに類似したCT画像のパターンを呈します。

3.ウイルス検査
CARVを検出する方法として、イムノクロマト法による迅速抗原検査と、ウイルス核酸を増幅して検出するPCR法があります。CARVの中で迅速抗原検査が利用できるのは、インフルエンザウイルス、RSV、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、新型コロナウイルスのみです。これらのすべて保険適応ですが、RSVの迅速抗原検査は、①入院患者、②1歳未満の乳児、③パリビズマブ製剤の適用となる患者のみ算定可能で、ヒトニューモウイルスの迅速抗原検査は6歳未満の患者で聴診または画像検査で肺炎が強く疑われるときのみに算定できます。
成人のCARV感染症では小児と比べ一般的に鼻咽頭のウイルス量が少なく、PCR法と比較すると感度が悪いことが知られています。
複数のCARVを一度に検査することができるマルチプレックスPCR検査がありますが、すべての肺炎患者でマルチプレックスPCR検査を行うことは費用対効果などから現実的ではありません。

4.代表的なウイルス性肺炎の治療とワクチン
1)SARS-Cov-2
酸素飽和度や画像所見を基に重症度(軽症、中等症Ⅰ、中等症Ⅱ、重症)を判定し治療方針を決定します。
軽症は感冒症状のみで肺炎所見のない状態(酸素飽和度が96%以上)
肺炎所見はあるが呼吸不全がなければ中等度Ⅰ
肺炎所見+呼吸不全(酸素飽和度が93%以下)があれば中等度Ⅱ
集中治療室に入室、または人工呼吸器が必要な状態は重症

軽症から中等症Ⅰで入院治療は不要と判断した場合
発症からの日数、病状、重症化リスク因子(年齢、基礎疾患、ワクチン接種状況など)を基に薬物治療の適応を考えます。
発症から7日以内、病状の悪化傾向、重症化リスク因子のすべてに該当すれば、第一選択薬はニルマトレルビル・りトナビル(パキロビット®)であり、腎機能障害や併用禁忌薬内服中などの理由で使用できない場合はレムデシベル(ベクルリー®)か、モルヌピラビル(ラゲブリオ®)を選択します。
発症から7日以内、病状の悪化傾向に該当し、重症化リスク因子はないものの症状が強い(呼吸困難、高熱の持続、強い倦怠感など)の場合には、エンシトレルベル(ゾコーバ®)の投与を検討します。

CVID-19の入院治療では、レムデシベル(ベクルリー®)の投与を基本とし、中等症Ⅱ以上ではデキサメタゾンも併用します。
オミクロン株出現以降、COVID-19の死亡率は減少しているものの、40歳以上の患者では季節性インフルエンザの死亡率よりも高いです。
ワクチンは重症化を予防する有効な手段であり、特に高齢者や重症化リスク因子を有する人はワクチン接種が推奨されています。

2)インフルエンザウイルス
1999年にA型インフルエンザ抗原を検出できる迅速診断キットが利用できるようになり、2001年以降、A型、B型の両方に有効なノイラミニダーゼ阻害薬が次々と上市され、2018年にキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬のバロキサビルが保険適用になりました。
RNAポリメラーゼ阻害薬であるファビプラビルは、他の抗インフルエンザ薬が無効な新型または再興型インフルエンザが発生した場合に、厚生労働大臣の要請のもと製造される医薬品として承認されています。
インフルエンザ肺炎症例では細菌の混合感染にも注意が必要であり、システマティックレビューでは最近の混合感染率は2~65%です。
インフルエンザに対するワクチン2015~16年シーズンから4価ワクチン(2025~26年シーズンは3価ワクチン)が使用されており、2024年10月からは経鼻弱毒生ワクチンが日本でも利用できるようになり、基礎疾患のない2~18歳の子供や若年成人が接種対象です。
ノイラミニダーゼ阻害薬
タミフル® 1回1錠(75㎎) 1日2回内服×5日間 
リレンザ® 1回2ブリスター(10㎎) 1日2回吸入×5日間 
イナビル® 1回2容器(40㎎) 単回吸入
ラピアクタ® 1日300㎎を点滴静注
エンドヌクレアーゼ阻害薬
ゾコーバ® 1回40㎎を単回内服(体重80㎏以上では、1回80㎎)
RNAポリメラーゼ阻害薬
 アビガン® 1日目:1回1,600㎎を1日2回、2~5日目:1回600㎎を1日2回

3)RSV
RSVは乳幼児における細気管支炎の主因として知られていますが、成人においても、基礎疾患を有する人や高齢者では重症化し、肺炎や基礎疾患の増悪を引き起こすことがあります。
米国で行われた前向き研究では、インフルエンザやCOVID-19より、RSV感染症の方が重症で予後不良であったとの報告があります。
RSV感染症の治療薬に関しては、重症化リスクを有する乳幼児を対象とした抗体製剤(パリビズマブ、ニルセビマブ)は存在しますが、RSVに特異的な抗ウイルス薬は実用化されていません。したがって、ワクチンによる予防が重要となってきます。
RSVワクチンはアレックスビー®筋注用とアブリスボ®筋注用の2つがあります。両者とも不活化ワクチンで任意接種となっています。
接種対象者は、前者が60歳以上の成人と50歳以上で重症化リスクが高いと考えられる人、後者が60歳以上の成人と妊娠24~36週の妊婦です。アブリスボは、妊婦にも接種できる点で、出生時のRSVによる下気道感染症を予防する効果があります。

参考文献:
「日本内科学会雑誌 114⑪ 外来で遭遇する呼吸器感染症の診療 日本内科学会」

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