梶が谷駅前内科クリニック
公式ブログ
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パーキンソン病は、運動障害を主症状とする代表的な神経変性疾患です。
根治は未だ困難な神経難病ですが、適切な治療介入により運動機能や生活の質(QOL)の維持が可能です。
一方で疾患修飾薬や再生医療の研究開発が進み、2026年になり再生医療が研究段階から実装段階へ踏み出しました。
1.パーキンソン病診療は何が変わったのか
1)運動症状中心から非運動症状を含めた全人的診療へ
パーキンソン病診療は従来、運動症状に基づいた診断とドパミン補充療法(DRT)による標準的治療が行われてきました。近年では非運動症状がQOLや予後をも左右することが広く認識されています。
パーキンソン病はもはや運動障害疾患としてのみではなく、全人的管理を要する慢性進行性全身性疾患と捉えられています。
2)DRT一辺倒から病期と背景に応じた個別化治療へ
DRTは1960年代に確立され、日常生活動作(ADL)に加え生命予後をも向上しました。同時にDRTは運動合併症、すなわちウェアリングオフ現象およびレボドパ誘発性ジスキネジアをもたらしました。運動合併症出現以前の臨床病期は早期、出現以降は進行性と称されますが、早期ではADLを維持しつつ運動合併症の出現をできる限り遅らせ、進行期には運動合併症を適切に調整しながら生活機能を保つことを念頭に置いた診療が理想となります。
脳深部刺激療法(DBS)が治療オプションに加わり、薬物療法は持続的ドパミン受容体刺激(CDS)の治療戦略的概念のもとでドパミンアゴニストが開発されました。
治療目標を変化し、単にDRTによる運動症状軽減だけではなく、患者の社会参加や自立をできる限り長く支えることが重要視されています。
各種非運動症状によるQOL低下にも介入して維持向上の方向へ拡張されています。
3)脳神経内科医単独から多職種および地域連携へ
パーキンソン病診療はもはやDRT単独はもとより脳神経内科医単独で完結する時代ではないです。
4)再生医療や疾患修飾療法を見据えた時代へ
パーキンソン病に対する疾患修飾療法として2つの抗αシヌクレイン抗体が開発されました。ただし、疾患修飾療法は確立には至っていませんが、実現可能性を探る段階にあります。
再生医療では、日本から非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いた第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験が報告されています。移植後にドパミン産生の増加と生着が示され、腫瘍形成を認めなかったことから、安全性と潜在的有効性が報告されています。
2.パーキンソン病を疑う初期徴候と鑑別
静止時振戦を例にしますと、ふるえは最も目につく症状であり受診契機として最多です。一方、静止時振戦は約8割程度であり、その他の運動障害を主訴に受診する場合も少なくありません。
つまり静止時振戦がなくともパーキンソン病を除外することができません。
・振戦が前景に出ない患者も少なくなく、運動緩慢が訴えの主体のこともあります。
・小声症、小字症、小刻み歩行、表情減少、便秘、嗅覚低下、REM睡眠行動障害(叫ぶ、手足をばたつかせる、夢遊病)、抑うつやアパシーなどの気分障害、などが主訴のこともあります
・鑑別診断として、二次性パーキンソニズム(薬剤性、脳血管性など)、症候性パーキンソニズム(慢性硬膜下血種、正常圧水頭症など)などと、神経変性疾患による非定型パーキンソニズム(進行性核上性麻痺、多系統萎縮症など)を分けて念頭に置きます
・特に服薬歴(抗精神薬、制吐薬など)には注意を払います
実地医家が注目すべきは、これらの変化が単独ではなく複数重なって現れていないか、進行性に悪化していないか、その2点です。
例えば、便秘の増悪に加えて歩幅の減少や動作が鈍くなったなどいった場合や、家族からの「前となんか違う」という違和感に初期徴候を疑うことが重要です。
さらに鑑別上問題となる非定型パーキンソニズムでは、早期から繰り返す転倒、著明な自律神経障害(起立性低血圧による失神や腸閉塞など)、垂直性眼球運動障害、左右差に乏しい強い下肢優位の運動症状、運動失調症、早期のもの忘れ以外の認知機能障害、鮮明な幻視などがパーキンソ病らしからぬ症候として重要です。
3.病期に応じた薬物治療の考え方
パーキンソン病治療の基本はDRTでありレボドパ配合薬です。
開始時には将来発生が想定される運動合併症に関する正しい情報提供と理解を促します。いったん治療が安定すると早期の臨床症状は緩和され、日常生活や社会活動に支障を来さないハネムーン期となり複数年は良好な状態となることが多いです。
治療開始後5~10年程度が経過すると、運動合併症が認められるようになり進行期となります。
オフ時間とレボドパ誘発性ジスキネジアが現れ、生活に支障を来すようになると単純なDRT強化では対処困難となります。
CDS実現のために服薬回数を増やしたり、ドパミン補助薬を併用したり、長時間作用型の徐放剤や貼付剤を追加あるいは増量することがあります。
DRT強化は同時にドパミン由来の副作用をも強めてしまうことから、リスク&ベネフィットを考慮した調整が必要になります。
一方、非運動症状の治療は病期によらず全経過を通じて注意を払います。
パーキンソン病の運動機能における終末期的な病期を経て認知機能障害が持続する状態になるとlate stageと捉えられます。ADL維持を追求せず、仮にADLを犠牲にしても安全な生活を確保してQOL維持を重視した全人的医療を施す病期です。
4.非運動症状診療がQOLを変える
非運動症状(認知症、抑うつ、アパシー、日中過眠、REM睡眠行動障害、便秘、起立性低血圧、痛み、衝動制御障害)
パーキンソン病の病態に関連して運動障害発現以前に出現し、全臨床経過を通じてQOLを阻害します。
非運動症状は、患者によっては運動症状以上に日常生活障害の原因となります。
具体的には便秘は、服薬吸収や食欲、腹部不快感、日中の活動性維持に悪影響を及ぼし、起立性低血圧や食後低血圧などは転倒や栄養障害や失神の温床となります。
日中過眠やREM睡眠行動障害などの睡眠障害は日中の活動性維持に悪影響があり、抑うつやアパシーやアンへドニアなどの気分障害は服薬アドヒアランスやエクササイズ意欲を損ないます。
5.デバイス補助療法と導入検討
進行期に実地医家が判断に迷う代表的治療が、ポンプデバイス補助による薬物療法およびデバイス自体を用いた機能外科的治療です。
時期尚早であってもデバイス療法を行っている専門医療機関へ躊躇なく相談するべきです。
一方で、患者の誰しもが恩恵を享受できる治療ではないため、安易なお勧めは差し控えることもまた重要です。
とはいえ、デバイス療法は最後の手段ではないため、運動合併症が生活障害の原因になってきた時期、すなわちまだ生活機能が保たれている段階で検討に進むべきです。
6.再生医療という新たな段階へ
日本で行われた臨床試験を受けて、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞はraguneprocelとして、既存のレボドパ含有製剤などで十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善を標的として、製造販売承認申請され、条件および期限付き承認を受けています。
現時点では長期的有効性および安全性の評価が継続中であり、直ちに普遍的な有益性の確立を意味するものではないです。しかしながら、失われたドパミン神経機能の再建を目指す治療が実臨床に導入された意義は極めて大きいです。
パーキンソン病診療が単なる補充療法や症状緩和にとどまらず、失われたドパミン神経機能の再建を目指す新たな段階へ踏み出したことを示します。
参考文献:
「日本内科学会雑誌 115⑧ 進化する難病診療 日本内科学会」
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