プロトンポンプ阻害剤(proton pump inhibitor:PPI)の功罪

胃酸分泌抑制作用を有するプロトンポンプ阻害剤(proton pump inhibitor:PPI)は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬に比べて、より強力な酸分泌抑制作用を持ち、肝代謝のため腎機能低下例にも使用しやすい。消化性潰瘍の治療、予防、逆流性食道炎の治療に広く使用され、酸関連疾患の第一選択薬として用いられています。

PPIの安全性は比較的高いと考えられていますが、種々の有害事象との関連しうることも示唆されています。

1.早期に出現する有害事象

他の薬剤と同様に、薬剤アレルギーに起因して発症すると考えられるショック、アナフィラキシー、血球減少症など

2.長期投与に伴う有害事象

1)長期投与に伴い胃酸分泌抑制作用と関係なく発生すると考えられる有害事象

①Microscopic colitis 慢性下痢などを呈する

②腎障害
・急性間質性腎炎
発症年齢は高齢者に多く、主な症状は発熱、倦怠感、悪心、腰背部の痛み等であるが、無症状も70%強と多い。検査では、クレアチニンの上昇、CRP上昇、好酸球増多などが認められるが、ほとんどの症例で、PPIの中止で腎機能は改善する。
・急性腎障害
・慢性腎臓病
PPIによる腎障害の予防には、不必要な処方を避け、漫然と使用しない。急性間質性腎炎と診断された場合は、すぐに中止することでほとんど改善する。

2)長期投与に伴い胃酸分泌抑制作用に関連して発生すると考えられる有害事象

骨粗しょう症・骨折、鉄欠乏性貧血の明確なリスクは認められない

①腸管感染症
サルモネラ、キャンピロバクタ―などの酸に弱い菌では、胃内の酸度が低下すれば、胃内での細菌の生存率が高くなり腸管感染症が成立しやすくなる

②胃ポリープ
胃底腺ポリープの発生原因となっていると考えられるが、このポリープから癌が発生してくることはほとんど報告されていないため、経過観察を行うことで問題ない。PPIを中止すると退縮していくことも経験する。

③胃癌
胃癌との関連は、萎縮や胃炎などの胃癌リスクがある患者さんにおいては、PPI投与が癌リスクをわずかながら増加させる可能性が示されているが、PPIが胃癌の原因になると示されたわけではない

参考文献 :日本内科学会雑誌 112-1 January 10 2023 参照

《関連ページ》

梶が谷駅前内科クリニック